犬の前十字靭帯損傷

症例内容

先日、2歳のボーダーコリーがドックランに行ってから右後肢を挙げてしまったり、ビッコを引いたりしてしまうということで来院しました。身体検査にて膝関節の前十字靭帯の緩みを検出し、レントゲン検査でも膝の関節液の増量(関節内の炎症)を認め、前十字靭帯損傷と判断しました。

飼い主様と相談の上、関節鏡にて膝関節を探査した後、前十字靭帯損傷を確認した後に、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)を実施することになりました。

 膝の関節鏡では、前十字靭帯の一部の毛羽立ち=部分断裂(写真1)とわずかな毛細血管の浸潤=初期の滑膜炎(写真2)を認めたものの、半月板の損傷はありませんでした(写真3)。その後、以下のレントゲン写真の通りTPLOを実施しました。

写真1

写真2

写真3

手術前

TPLO後

犬の前十字靭帯断裂は一般的には中〜高齢犬で認められますが、今回の症例のように若齢でも発症しうる疾患です。大腿骨(太もも側)と脛骨(すね側)とをつなぐ前十字靭帯は、脛骨の前方変位や内旋の抑制や制限をすることで膝関節の安定に大きな役割を果たしています。この靭帯が損傷することで膝関節が不安定になり、それが痛みや運動障害につながります。
 TPLOは、膝の関節面における脛骨の角度を矯正することで膝関節の安定化を目指す術式であり、小型犬から大型犬まで世界中で実施されています。前十字靭帯の完全断裂と比較して、部分断裂のより早期のタイミングで外科介入することで、半月板損傷の発生や関節炎進行の抑制をもたらし、手術後の早期かつ良好な機能回復につながるとされています。

 今回の2歳のボーダーコリーは、こういった背景を踏まえて飼い主様の迅速な決断もあり、靭帯損傷のより早い段階で手術に踏み切ることができました。もちろん、それでも様々な合併症のリスクはありますし、前十字靭帯損傷の場合は両後肢で発症することも珍しくないため、引き続き注意深く経過を見ていこうと思います。