犬の後腹膜血管肉腫

症例内容

ビーグル、避妊雌、15歳の症例です。突然の食欲不振、活力低下で来院され、各種検査を実施したところ腹腔内出血に伴う出血性ショックと診断されました。腹部超音波検査にて右上腹部に大型腫瘤が認められたため出血の原因と考えらえました。ショック治療を行い全身の安定化を行った後に精査としてCT検査を実施いたしました。CT検査では右腎尾側の後腹膜領域に6.0×5.5×7.2cmの腫瘤病変が認められ、右腎臓や十二指腸、膵右葉、後大静脈を圧排しているのが認められました(図1A、図1B)。本症例はショック治療後も慢性的な腹腔内出血を繰り返していたため、腫瘤病変の外科摘出を行うこととなりました。

図1A

図1B

手術は腹部正中切開に加え、右傍肋骨切開を行いアプローチしました。腫瘤は大網、右腎臓、膵右葉、十二指腸間膜、後大静脈に癒着しており、一部自壊した部位からの出血が認められました。各癒着を分離したのち右腎臓および膵右葉の末端部ごと一括で腫瘤を摘出しました。摘出時、癒着した膵十二指腸動静脈の一部を温存できなかったため、同部位の十二指腸も切除し端々吻合を行うことで再建しました(図2,3,4)。

図2

図3

図4

術後は全身状態も回復し、術後7日目で退院となりました。摘出された腫瘤病変は病理組織学的検査いて血管肉腫と診断されました。血管肉腫は脾臓をはじめ、肝臓、腎、皮膚、心臓に認められることが多いですが、後腹膜に臓器不定で発見されることもしばしば認められます。一度出血するとコントロールできなくなることも多く、摘出が可能であれば外科切除が適応されます。一般的に血管肉腫は予後が悪いことが多く、本症例もその後経過観察する中で最終的に全身に転移が進んだことで亡くなってしまいましたが、飼い主様はそれまでの期間ご自宅でともに生活できたことを喜ばれておりました。