変性性腰仙椎狭窄症

症例内容

変性性腰仙椎狭窄症とはラブラドールレトリバー,ロットワイラー,バーニーズマウンテンドッグなどの大型犬や猫で好発するとされる後肢のふらつき等の症状を呈する神経疾患です。腰仙椎領域の脊髄は馬の尻尾のように何本にも枝分かれしており馬尾神経とも呼ばれます。排尿排便を支配する神経、後肢の屈筋群を動かす神経、尾の動きを支配する神経など大切な神経が複数存在しており、これらの神経が障害されて様々な神経徴候が生じます。これら神経徴候の病態の総称を馬尾症候群とも呼びます。また腰椎と仙椎の間の椎間は首から尾までの全ての椎間の中で最も可動域が大きいと言われており、変性性腰仙椎狭窄症ではしばしばこの可動域が大きすぎるために椎間の不安定性が生じて、骨や黄色靭帯、椎間板によって馬尾神経が障害を受けます。
この度当院での検査後に変性性腰仙椎狭窄症を疑い、手術を行ったバーニーズマウンテンドッグの1例に遭遇しましたので紹介させていただきます。検査では両後肢の神経学的反応の低下を認め、レントゲンにて腰仙椎間の不安定性を疑う所見を確認しました。(写真1,2)CT・MRI検査を行い、腰仙椎間の不安定性を疑う所見と椎間板の変性かつ脊柱管内への逸脱を確認できました。(写真3)

写真1,2

左が腰仙部伸展、右が腰仙部屈曲画像。腰椎と仙椎の間の脊柱管と椎間が伸展画像では狭窄しており、椎体の不安定性が疑われる。

写真3

術前MRI(T2縦断像)。腰仙椎間の椎間板が馬尾神経を圧迫していることが確認できます。

飼い主様と相談の上、後日手術を行う運びとなりました。手術中の所見として神経の背側を走る黄色靭帯の肥厚と変性して硬結した椎間板髄核を確認できました。変性性腰仙椎狭窄症の手術方法は現代の獣医業界では確かな方法が確立されているわけではありませんが、本症例は腰仙椎間の不安定性を疑う所見が存在していたため、腰仙椎間の造窓を行って黄色靭帯を除去後、馬尾神経を露出(写真4)し、逸脱している椎間板の摘出を行い、最後は腰仙椎間を経関節スクリューとPMMA(セメント)を用いて固定しました。(写真5,6,7,8)

写真4

背側の椎弓を切除し、馬尾神経が露出されています。この下に馬尾神経を圧迫している椎間板が存在します。

写真5

写真6

写真7

写真8

神経疾患は術後のリハビリが大切になります。今後元気に歩いて病院に来てくれることを期待しております!!