猫伝染性腹膜炎(FIP)

症例内容

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは正常な猫の腸内にも存在する猫腸コロナウイルスがストレスなどの要因によって体内で猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPウイルス)に突然変異することによって発症する致死性感染症です。日本では純血種の若齢雄猫で多いとされています。
FIPは大きく分けて、腹水が溜まってくるウェットタイプと、脾臓・肝臓・脳・眼などに病変をつくるドライタイプがあります。どちらのタイプにも共通して発熱、食欲不振が起こってきます。
これまでのFIPは対症療法しかなく、発症するとかなりの確率で1週間程でなくなってしまうような病気とされてきました。
しかし、最近になってFIPの新しい治療法として抗ウイルス薬が使用されるようになってきました。当院でもモルヌピラビルという抗ウイルス薬を使用した治療を開始しました。この薬についてはまだ猫での研究数が多いわけではなく、プロトコールや副作用については実験段階です。
今回、当院でFIPと診断し、モルヌピラビルで治療中の猫の1例について紹介させていただきます。以下が初診時と治療2か月目の腹部レントゲンです。初診時、大量の腹水貯留によって腹腔内臓器が不明瞭だったのに対し、治療2か月目には腹水が大幅に減少して腹腔内臓器が見やすくなっているのがわかります。投薬開始後1週間程で元気食欲が戻り始め、治療開始2か月目現在も比較的調子良好とのことでした。超音波検査上ではまだわずかに腹水が残存しているので投薬を継続しています。治療3か月目で再度検査をして投薬の継続を判断する予定です。
FIPはもともと致死性の病気で薬も研究段階ではあるため、まだ安心しきれない状況ですが、このまま寛解して元気に大きな猫ちゃんに育ってくれることを期待しています。

初診時腹部レントゲン

2か月目腹部レントゲン