犬の門脈体循環シャント

症例内容

ミックス犬、避妊雌、2歳の症例です。1週間ほど続く活力低下、ふらつきを主訴に受診されました。スクリーニング検査を実施したところ血液検査では高アンモニア血症が認められ、食事前後の総胆汁酸の数値も高値で認められました。レントゲン検査でも小肝症が認められたことから、門脈体循環シャントによる肝性脳症が疑われました(図1)。

図1

精査の為腹部CT検査を実施したところ左胃静脈-後大静脈シャントが認められたため、後日シャント血管閉鎖の為の手術を実施させていただきました(図2)。

図2

腹部正中切開を行い開腹後、網嚢内アプローチで脾静脈や左胃静脈、左胃動脈、肝動脈を同定し、シャント血管を確認しました。左胃静脈-後大静脈シャントは後大静脈に直接短絡する太く短いシャント血管であることが多く、これら血管を損傷しないように分離していきました(図3)。

図3

シャント血管の閉鎖は肝内門脈の発達度合いや仮遮断を行った際の門脈圧の変化やバイタル変動、腸管の状態などを考慮し当院では完全結紮、部分結紮、アメロイドコンストリクターなどの段階的遮断具から選択しています(図4)。

図4

本症例は門脈圧の上昇が許容レベルであり各種条件を満たしたため結紮糸による完全結紮を実施しました(図5)。閉腹後CT検査にてシャント血管が閉鎖され正常血流に戻っていることを確認し手術終了としました。

図5

シャント血管遮断における術後最も問題となる合併症は結紮後発作症候群であり、対策を行ったとしても犬では10%前後の発生率で起こるとされています。原因となる病態は完全には解明されておらず、一度起こると致死的となることや深刻な後遺症が残ることが多いです。本症例は5日間の入院中大きな異常が認められることもなく元気に退院されました。退院後の血液検査ではいずれの項目でも正常化が確認されたため、治療終了とし現在は経過観察となっています。