犬の臀部巨大軟部組織肉腫

症例内容

ビーグル、未去勢雄、9歳の症例です。一年程前に左側臀部における腫瘤病変が認められ、その後かかりつけ医にて経過観察を実施していましたが、腫瘤の増大傾向が続くということで当院に来院されました。腫瘤病変のサイズは8.0×5.0×5.6cm、軟性、周辺筋肉との固着が認められる巨大な左側臀部皮下腫瘤が認められました。細胞診にて紡錘形細胞が認められ、その臨床経過から軟部組織肉腫を疑診致しました。全身状態に問題はなかったため、CT検査にて腫瘤と周囲組織の評価を実施し、根治を目指した腫瘤病変の外科切除を行うこととなりました。
手術は水平マージン1 cm、底部マージンは大腿筋膜1枚としました。水平マージンに関しては、腫瘤が左側肛門に隣接していたため、このマージンとしました(図1)。

図1

腫瘤切除後、術創に強い張力がかかることによる離開を予防するため、軸状皮弁の一つである深腸骨回旋動脈皮弁を用いての閉鎖を実施しました(図2,3,4)。

図2

図3

図4

これにより術創の減張が為された皮膚再建が達成されました(図5)。

図5

術後は術創の壊死及び離開も認められず、術後5日で退院となりました。術創が広範囲だったこともあり、抜糸までは3週間ほど要しましたが、重篤な合併症も起こらず癒合が完了しました。提出した腫瘤は病理組織学的検査の結果、軟部組織肉腫(Grade:2)と診断されました。マージンも確保されていたため、明らかな脈管内浸潤、及び切除縁での病変も認められませんでした。軟部組織肉腫は通常成長が遅い浸潤性の肉腫で、中高齢犬の四肢や体側表面によく認められ、不完全切除の場合、時間の経過とともに局所再発することが多い腫瘍とされています。しかし、初回の外科切除で完全切除できた場合の予後は比較的良好なため積極的な外科切除が推奨されます。本症例も今後の局所再発には注意が必要ですが、巨大な腫瘤が切除され、飼い主様も満足されていました。